いいとおもうのを言ってあげた。その日本婦人は大へん喜んでさっそくそれを買ったのであるが、その時その婦人が支那人の店員に切ってあげなさいという意味の言葉を支那語で言ってくれたので、やっとのこと私は欲しかった布地を切って売ってもらうことが出来た。
「ほかの人キラン、今日は特別キル」
売場の支那人がそんな愚痴をこぼしていた。
人にすすめられて二階つきのバスにも乗ってみた。バスを降りようとすると、沢山の支那人が降り口に押し合っていて年寄りの私などなかなか降りることが出来そうもない。困惑していると、メンメンチョ、こう言って車掌が乗り手を止めて私を降ろしてくれるのであった。
支那靴などにもとても美しいものがあった。龍や花紋様が刺繍で色美しく入れてあってなかなか美術的なものである。私はそれも買い入れた。何も支那靴など買って来てそれを穿こうというわけではないが、その美しさにひかれて買ってしまったのである。
連絡船
往路の長崎丸は静かな船旅であったが、帰途の神戸丸は上海を出離れるとすぐからすこしゆれだした。人々はすぐ寝こんだので私もそれにならい、ついに船に酔わずに戻ることが出
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