もこれも、母への追慕から描いたものばかりである。

 母が亡くなってからは、私は部屋に母の写真をかかげているが、私も息子の松篁も、旅行にゆくとき、帰って来たときには、必ずその写真の下へ行って挨拶をすることにしている。
「お母さん行って参ります」
「お母さん帰って参りました」

 文展に出品する絵でも、その他の出品画でも、必ず家を運び出す前には、母の写真の前に置くのである。
「お母さん。こんどはこんな絵が出来ました。――どうでしょうか」
――と、まず母にみせてから、外へ出すのである。
 私は一生、私の絵を母にみて頂きたいと思っている。



底本:「日本の名随筆 別巻84 女心」作品社
   1998(平成10)年2月25日初版発行
底本の親本:「青眉抄」三彩新社
   1986(昭和61)年5月
入力:門田裕志
校正:林幸雄
2003年5月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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