この両足院の易者に私の四柱をみて貰った思い出のある寺であるが、この建仁寺の襖にも天女を描く約束をしてある。
これはずいぶん前々から約束してあるのだが、いまだにその機運にめぐり合わさないでいる。
私の理想の天女を、幾人も描きたいのであるが、理想の中の天女も、いざ筆の先で描き出すとなると、なかなか思うようには出て来ないものである。
湊川神社の楠公夫人の像にしろ、宝篋院の楠公夫人と正行の絵にしろ、建仁寺の天人にしても、末代まで残るものであるだけに、相当の日数をかけて微塵隙のないものに仕上げなくてはならぬが、それがいずれも大作ばかりなので、この忙しさでは、なかなか手をつけられそうにない。
今年の末あたりから、他の仕事は一切やめて、一、二年この三つのために時間を見出だそうと考えている。
そうでもしなければ出来ないと思う。
時間がほしい。
時間がほしいと、しみじみ思う。
底本:「青眉抄・青眉抄拾遺」講談社
1976(昭和51)年11月10日初版発行
1977(昭和52)年5月31日第2刷
入力:川山隆
校正:鈴木厚司
2008年5月10日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
上村 松園 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング