を入りかわり立ちかわり運んでゆくのです。これを橋の上から眺めているのは私だけではございませんでした。川風の涼しさ、水の中の床几やぼんぼり、ゆらゆらと小波にゆれる灯影、納涼客、仲居さんなどと、賑やかなくせに涼し気なそしてのんびりとした夏景色でございました。これは本当に昔々の思い出話なのでございます。いま四条大橋に行って見たところで決してその橋の下で、人達がそんな風にして夏の短かな夜を楽しんだなどということは夢にも考えることが出来ません。ただ、四条河原の夕涼みは都の夏の景物の代表的なものだったので絵に描かれて残っているものは相当多いようです。
 また、これも同じようなお話ではございますが、夕景に川の浅瀬の床几に腰下ろした美人が足を水につけて涼んで居るのも本当に美しいものでした。目鼻立ちの整ったすんなりした若い婦人でなくても、そうした時刻、そうした処で見受ける女姿というものはやはり清々しゅう美しく人の眼にうつるのでございました。

 夏の嬉しいものの一つに夕立がありますが、思いきって強い雨が街々の熱気をさっと洗いながして過ぎさった後なぞに御所の池の水が溢れたりすることもございまして、私の家の筋が川みたいになり、そこらの角で御所の池の大きな大きな鯉がおどっていたりして町内の子供衆達がキャッキャッと声をあげてはしゃぎ騒いだりする、これも夏のほほえましい思い出の一つでございます。
 なんと言っても旧暦のお盆の頃は街全体が活気づいて賑々しく、まるでお祭りのようでございます。私の幼い頃はお盆になると日の暮れに行水を浴びると、女の子達は紅提灯をてんでに買うて貰って、自分の家の紋をつけ、東、西の町内の子達がみな寄りあつまって、それぞれの提灯の絵を比べあったりいたします。何処の子もみな寄って来て揃うと年|嵩《かさ》な女の子が列をつくって、
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※[#歌記号、1−3−28]さーのやのいとざくら
 ぼんにはどこにもいそがしや
 ひがしのお茶屋の門口に
 ちとよらんせ、はいらんせ
[#ここで字下げ終わり]
 そんな可愛らしい歌をうとうて、ずっと二列に二人ずつ並ばして、小さな子供を先に、そこらの町内を練って歩く。小さな女の子にはそれが豪《えら》い楽しみなものでございました。
 前にも申したうしろとんぼや、おたばこぼん、それからふくわげ、ふくわげと申しますのは阿波の十郎兵衛に出
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