もひまわせば、たのむわ、ふるさと。ちち、はは。まだ、ほかにも、あり。
かへらんと。つつめばそでに。あまりけり。つみしわかなを。いかにとかせん。
○同二十一日。たつのこくに、みやこをたち、さるのこくに、おのみちぶねに、のり
○同二十二日。かぜ、つよし。さけを、のみ、
ふなびとに。まかせてわたる。のりのうみ。なみたたばたて。かぜふかばふけ。
○同二十三日。むまのこくに、おのみちに、つき、とみよしやに、とまる。
○同二十四日。ふるさと、あやめ(菖蒲)
なにことも。さたかならざる。よのなかに。かわらぬきみの。こころうれしき。
○同二十五日。すみ寿。琴にて。かがりび。三へん。けいこいたす。
同断中略。
○五月一日。とぞなりにける。さても、このせつわ、は(歯)を、いたむ。
○同二日。あめふる。おりやう、さみせん、ななくさ。おふえ村、おすて。きたりぬ。琴にて、てんかたいへい。さても、さても、歯がいたい。
○同三日。つづいて。あめ。はもいたむ。なにほどの、つみや、むくいの、あらわれて、かくまでわれわ、はをいたむらん。
○同四日。あめも、ふらぬに、はをいたむ。なにのいんがに、このやうな、気づよいをとこが、まま、わしや、いとし。
○同五日。はをいたむゆゑ、げざいをのむ。されども、きかず。さて。
○同六日。くすりも、よくめぐりけるか、歯わ、なをり、はらをいたむ。さくじつまでわ、したきりすずめ、こん日わ、にんげんらしきものを、たべたり。つぎに、あぶらやのおせつ、琴にて、さよかぐらを、けいこ。
○同七日。ひるから、あめふる。また、歯がいたまねばよいが。
○同八日。うてん。それこそ、また歯をいたむにつき、のみけるものわ、くすり。
○同九日。あめふる。か(蚊)ひとつ。
かならずと。ちぎりしひとわ。来もやらで。さみだれかかる。やどのさびしさ。
同よる。はを、いたみ候。ああ、さてもさても。
○同十日。あめふる。歯が、いたい。おかや。琴。すゑのちぎりをけいこする。おかやに言はれて、こんにちより、たばこを、たち(断ち)申し候。
○同十一日。あめふる。同いたい、いたい。
にくまれて、世にすむかひわ、なけれども、かわいがられて、死のよりましか。
この、こか(古歌)のごとく、わしも、歯がいたくて、世にすむかひわ、なけれども、ねずみとらずの、ねこよりましか。やれやれ、いたや。いのちの、あらんかぎりわ、この歯をいたむことかと、おもへば、かなしく候。
さびしさわ。あきにもまさる。ここちして。日かずふりゆく。さみだれのころ。
○同十二日。同いたむ。ひるからわ、いたみも、すくなし。四つから、てん気よく、おけふ。さみせんにて、おいまつ。けいこいたす。
○同十三日。歯も、こころよく候。こん日より、また、たばこをのむ。
同断中略。
○六月十六日。休そく。やれ、たいくつや。あつや。へいこう、へいこう。
○同十七日。あるうたに、
あさねして、またひるねして、よひ(宵)ねして、たまたま起きて、ゐねむりをする。
とやら。きのをから、ねるほどに、ねるほどに、ゆめばかり見るわい。
さるのこくにいでて、いぬのこくに、やいろ(八尋)へもどる。
○同十八日。なにをしたやら、わけがわからぬ。
○同十九日。なんにも、することがない。あつや、あつや。
○同二十日。また、休そく。このごろわ、きうそくだらけで、ござる。
○同二十一日。うのこくにいでて、たかや(高屋)かわもと(川本)に、きたる。おてる。さみせんにて。そでのつゆ。
○同二十二日。せみのこゑが、やかましい。
○同二十三日。ながさき、めつけ(目附)のおとをり。したにをれ。
○同二十四日。きのをよりも、あつい。おてる、けいこあいすみ、どんなゆめを見るのぢや、と子どもらしきこと、せがむゆゑ、もうじん(盲人)もゆめわ見るわい、ゆうべのゆめであつた、にんぎやうが、琴さみせん、こきう(胡弓)ふゑ、つづみ、たいこにて、ゑてんらく(越天楽)を合はせけるに、おわるやいなや、なりものを、いつさい、なげてければ、のこらずくだけたり。また、もひとつ、つぎはぎのゆめを見た、ぬすびとの、わきざしを持ち、にかいへあがる、ころものそで、はしごにかかり、つぎに、ざいた(座板)ふみ落す、ここわなにかと問へば、たばこをだす、あな、と言ふ、したには、くわじ(火事)なかば、琴のいとをしめて、かへるといへば、たけだの仁吾が、だいかぐらを、つれてくる、見ておかへりなされといふ、なにがなにやら、わからぬゆめであつたと、いへば、おてるわ、ころげてわらつた。また、十五六七八くらゐの、むすめを、ゆめに見たといへば、どんな着ものを、とすぐに問ふなり。もうじんには、いろわ、わからぬなれども、さむき着ものであつたから、あを(青)であらうといへば、おてるわ、かんしんした。
○同二十五日。あめもふる。ひもてる。きつねの、よめいりか。
同断中略。
○七月六日。たなばたの、うたにとて、よむ。
ひととせに。こよいあうせの。あまのかわ。わたらばいまや。水まさるらん。
あわぬが、よい。
○同七日。かねてたのみし、ひとの、かへられければ、さてさて、つまらぬ。ひとつとして、わがおもふことの、かなわぬわ、こよひなり。なれども、一つここに、たのしみあり。かぜまかせに、くらして、けいこが一ばん。
○同八日。あさ。てぬぐひかけを、あさがほにとられた。おさく。さみせんにて、たなばた。おちか。琴にて、むしのね。
○同九日。みなみな、かへる。さても、あついこと、やれやれ、あつや。これでわ、どこへもゆけぬわい。ひとあめふらねば、すずしうわならぬか。よしよし、あそぶぞ。こしを据ゑて、をれば、いろいろのことを、おもひだすなり。さてまた、いよのくに、まつやまから、けいこを、たのむけれど、ゆけば三ねん、かかる。ゆかねばすまず。はて。なんとしたが、よかんべい。それについて、うたを、よんだ。きいてもくんない。
みみなくば。などかこころの。まどわまし。きかぬむかしぞ。こひしかりける。
○同十日。そら。あしく。てりもせず、ふりもせず。そして、わしわ、すまぬことをしたわい。あやまり、あやまり。
○同十一日。うてん。さて。めづらしき、さたを、きく。
○同十二日。気が、さゑん。あんらくじにて、もりかねの、うたざらゑあり。ひるは、さらさら汗がでる。よるわ、ぞろぞろ雨がふる。はだしで、もどつた。やぶれがさ。
同断中略。
○八月二十日。おかやが、びいどろ(硝子)の、とつくり(徳利)を、くれた。うてん。いとを、しめたばかり。とみよしやに、ねたりける。
○同二十一日。うてん。ひるからわ、あめもあがり、やれ、いそがしや、いそがしや。はいやに、とまる。
○同二十二日。こあさ。さみせんで、ななくさを、はじめる。しげのの、おりう。さみせんで、いうぞら。けふわ、さみせん、よく鳴りまし候。はいやに、とまる。
○同二十三日。たいさんじにて、ついぜん、あいすみ。
○同二十四日。とみよしやにて、むかいびきをする。同よる。あめがふる。
○同二十五日。たつのこくにいでて、かわみなみ村おのみちやへ。きく弥が、琴で、ゆうがほを、ひいたが、ねずみが、あるくやうであつたわい。けいこ、三十。
○同二十六日。てんき。そこやかしこにゆき。
○同二十七日。かみをいうたり、ふろへ、はいつたり。むしのこゑ、みづが、ながれるやうな。たへかねて、
なにことも。ひとのこころに。まかす身は。いつをそれとも。さだめかねつる。
おかや。ひとり寝。さみせんにて。
○同二十八日。けいこ、あいすみ。つらきめに、あいたることか。ふつふつ、つかれた。四そく(足)かなわず。いわれず。きこゑず。ただ、ただ、見ゆるばかりで。ふふ。
同断中略。
○九月二十五日。このごろわ、あきのなかばなるに、うたもよめず、これでわ、こまつたものかな。かぜを、ひきて、ねたり。みぎのかほが、は(腫)れ、なにやらかやら、たのしまず。そこへ、だいかぐら(大神楽)が来たが、ぶざいくな、やつであつた。
○同二十六日。ただ、しんきに、くらしたり。かぜ、すこしわ、よろしく。
○同二十七日。お(起)きて、ははに、あふ。おかやのことわ、言わず。
○同二十八日。あまりのさびしさに。
さけもあり。もち(餅)もあるなり。ゆふしぐれ。
同よる。ばくちを、うつ。
○同二十九日。けいこ、一つ。
○同三十日。おかやわ、ふびんなり。あまりのことなれば、かくここに、しるす。みのこくより、けいこ。じゆの一、さみせん、きくのつゆ。おさわ、琴にて、馬追ひ。
○十月一日。あさ、すこし、あめふる。つぎに、かぜが、だいぶん、ふき候。同ばんかた、わが言ひしことを、そくざにおいて、打ちけされけることあり。にくき、やつばらめ。
○同二日。はし(橋)にて、であい、ひさしぶりにて、はなしをする。
さむしとて。かさぬるそでの。かひなきに。かくこそむかへ。うづみびのもと。
同断中略。
○十一月十六日。けいこ。よる、ゆきがふる。よくおもひみれば、日かずが、はや、なにほどもない。
よのわざに。けふもひかれて。くらしけり。あすも同。みとは知りにき。
どこでも、ふそくを言わるるにわ、わしも、へいこを。そこでも、いわれ、ここでも、いわれ。それにつき、わが師のいわく、けいこにんをば、わが子とおもへ、といへり。
○同十七日。みのこくに、いでて、ひつじのこくに、おべ村くわだに、きたる。どこへいつても、けいこの子の、ほかのようじ(用事)にて、いそがしきときほど、まの、わるいものわない。なにをするにも、ふじゆう(不自由)なやら、おやごに気がねるやら。このやうな、わるいことなら、なぜ、ここへ来たかとおもわるる。けいこわ、かたてまの、あそびにあらず。さむさ、きびしく、あしを、いたむ。
○同十八日。あそんだ。
○同十九日。いではら九一ろうどのに、はじめて、たいめんいたす。ちや(茶)の、めいじんなり。そのとき、
すむつきの。いとものすごく。なりてこそ。ふゆ来ぬそらと。見るべかりけれ。
と見えぬながらも、よみてけるに、九一ろうどのわ、しんがん(心眼)なるべしと、ひざ打ちたたいて、かんしんした。をかしなことぢや。
○同二十日。おつい、琴にて、うすゆき。おいそ、琴、ゆきのあした。すみ、琴、だうじやうじ。知られけり。
しらさじと。つつむおもひも。しばかきの。やぶれていまわ。あらわれにけり。
○同二十一日。八つどきに、しのびて、こまつやへゆき、さて、みな、てらまゐりせられて、ただ十三四なる、わらはの、るすをもりして、い申されければ、しかたなく、折をさいはひと、のたれこみ、ねたり、おきたり、くふたり、琴をひいたりして、さびしく御ざ候なり。れいのひとの糸を、しめてやりけり。みれん(未練)とわ、いまだねれず、とかく由。なにごとも、しゆげう(修行)だい一のこと。
うへもなき。ほとけの御名を。となへつつ。じごくのたねを。まかぬ日ぞなき。
同断中略。
○十二月二十五日。さむいと、おもひてをれば、ばんかたより、また、ゆきがふりいだして、げに、さむいことになつたよ。ああ、さむや。やれ、さむや。
○同二十六日。いちにち、こたつの、もりをした。たいくつした。ひさしぶりに、また、同かの、それ、みぎの、れいの、あいかわらず、歯をいたむなりけり。たたたたたたたた。
まい日。ばかのごとくなりて、日を、おくるにも、たいくつしてござり申、よそへもゆけず。しかたがないぞ。
○同二十七日。となりわ、ごしゆうぎ。よる、おほゆきとなる。ことしわ、めづらしきつみを、たんと、つくりたなあ。
○同二十八日。まことに、きせる(煙管)を、よく、とをし奉候。はやく、三十になりたや。
○同二十九日。はるより、こん日までのこと、まことに、ゆめのごとく、おもわれて、あれ、ゆめのやうぢや。ほんに、ふしあわせなる、としもあつたもの。二月にわ、くるしく、四月にわ、な(泣)き、五月に
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