家の様子をさぐる手段は無かった。それからも僕は、君に手紙を書き、また雑誌なども送ってやったが、君からの返事は、ぱったり無くなった。そのうちに、れいの空襲がはじまり、内地も戦場になって来た。僕は二度も罹災《りさい》して、とうとう、故郷の津軽の家の居候《いそうろう》という事になり、毎日、浮かぬ気持で暮している。君は未だに帰還した様子も無い。帰還したら、きっと僕のところに、その知らせの手紙が君から来るだろうと思って待っているのだが、なんの音沙汰も無い。君たち全部が元気で帰還しないうちは、僕は酒を飲んでも、まるで酔えない気持である。自分だけ生き残って、酒を飲んでいたって、ばからしい。ひょっとしたら、僕はもう、酒をよす事になるかも知れぬ。
底本:「太宰治全集8」ちくま文庫、筑摩書房
1989(平成元)年4月25日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房
1975(昭和50)年6月〜1976(昭和51)年6月
入力:柴田卓治
校正:miyako
2000年4月7日公開
2005年11月4日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青
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