になるわけだが、或《ある》いは卒業と同時に兵隊に行くかも知れん。しかし、また、行かないかも知れん。行かない場合は、どこかで勤めるという事になるだろうが、(この辺までは本当だが、それからみんな嘘《うそ》)僕は鶴田君のお母さんと昔からの知合いでね、僕のようなものでも、これでも、まあ、信頼されているのだ。それでね、ひとり息子の鶴田君の嫁は、何とかして先生に、僕の事だよ先生というのは、その先生に捜してもらいたいと、本当だよ、つまり僕はその全権を委任されているような次第なのだ。」
 しかし、かのおじさんは、いかにも馬鹿々々しいというような顔つきをして横を向き、
「冗談じゃない。あんたに、そんな大事な息子さんを。」と言い、てんで相手にしてくれない。
「いや、そうじゃない。まかせられているのだ。」と僕は厚かましく言い張り、「ところで、どうだろう。その鶴田君と、マサちゃんと。」と言いかけた時に、おじさんは、
「馬鹿らしい。」と言って立ち上り、「まるで気違いだ。」
 さすがに僕もむっとして、奥へ引き上げて行くおじさんのうしろ姿に向い、
「君は、ひとの親切がわからん人だね。酒なんか飲みたかねえよ。ばかもの
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