女は、どうやら病後のものらしい。けれども、決して痩せてはいない。清潔に皮膚が張り切っていて、女王のようである。老夫婦にからだをまかせて、ときどきひとりで薄く笑っている。白痴的なものをさえ私は感じた。すらと立ちあがったとき、私は思わず眼を見張った。息が、つまるような気がした。素晴らしく大きい少女である。五尺二寸もあるのではないかと思われた。見事なのである。コーヒー茶碗一ぱいになるくらいのゆたかな乳房、なめらかなおなか、ぴちっと固くしまった四肢、ちっとも恥じずに両手をぶらぶらさせて私の眼の前を通る。可愛いすきとおるほど白い小さい手であった。湯槽にはいったまま腕をのばし、水道のカランをひねって、備付けのアルミニウムのコップで水を幾杯も幾杯も飲んだ。
「おお、たくさん飲めや。」老婆は、皺《しわ》の口をほころばせて笑い、うしろから少女を応援するようにして言うのである。「精出して飲まんと、元気にならんじゃ。」すると、もう一組の老夫婦も、そうだ、そうだ、という意味の合槌《あいづち》を打って、みんな笑い出し、だしぬけに指輪の老爺がくるりと私のほうを向いて、
「あんたも、飲まんといかんじゃ。衰弱には、い
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