めくらのように生きていたあわれな女だったのだと気附いて、知覚、感触が、どんなに鋭敏だっても、それは動物的なものなのだ、ちっとも叡智《えいち》と関係ない。全く、愚鈍な白痴でしか無いのだ、とはっきり自身を知りました。
 私は、間違っていたのでございます。私は、これでも自身の知覚のデリケエトを、なんだか高尚のことに思って、それを頭のよさと思いちがいして、こっそり自身をいたわっていたところ、なかったか。私は、結局は、おろかな、頭のわるい女ですのね。
「いろんなことを考えたのよ。あたし、ばかだわ。あたし、しんから狂っていたの。」
「むりがねえよ。わかるさ。」あの人は、ほんとうに、わかってるみたいに、賢こそうな笑顔で答えて、「おい、おれたちの番だぜ。」
 看護婦に招かれて、診察室へはいり、帯をほどいてひと思いに肌ぬぎになり、ちらと自分の乳房を見て、私は、石榴《ざくろ》を見ちゃった。眼のまえに坐っているお医者よりも、うしろに立っている看護婦さんに見られるのが、幾そう倍も辛うございました。お医者は、やっぱり人の感じがしないものだと思いました。顔の印象さえ、私には、はっきりいたしませぬ。お医者のほうでも
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