ませんでした。私は、菊の花さえきらいなのです。小さい花弁がうじゃうじゃして、まるで何かみたい。樹木の幹の、でこぼこしているのを見ても、ぞっとして全身むず痒くなります。筋子なぞを、平気でたべる人の気が知れない。牡蠣《かき》の貝殻。かぼちゃの皮。砂利道。虫食った葉。とさか。胡麻《ごま》。絞り染。蛸《たこ》の脚。茶殻。蝦《えび》。蜂《はち》の巣。苺《いちご》。蟻《あり》。蓮の実。蠅《はえ》。うろこ。みんな、きらい。ふり仮名も、きらい。小さい仮名は、虱《しらみ》みたい。グミの実、桑の実、どっちもきらい。お月さまの拡大写真を見て、吐きそうになったことがあります。刺繍《ししゅう》でも、図柄に依っては、とても我慢できなくなるものがあります。そんなに皮膚のやまいを嫌っているので、自然と用心深く、いままで、ほとんど吹出物の経験なぞ無かったのです。そうして結婚して、毎日お風呂へ行って、からだをきゅっきゅっと糠でこすって、きっと、こすり過ぎたのでございましょう。こんなに、吹出物してしまって、くやしく、うらめしく思います。私は、いったいどんな悪いことをしたというのでしょう。神さまだって、あんまりだ。私の一ばん
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