なのに、それでもあの人は、ふとんや箪笥や、その他の家財道具を、私の母に買ってもらったことを、いまでも気にしていて、そんなに気にされると、私は、かえって恥ずかしく、なんだか悪いことをしたように思われて、みんな安物ばかりなのに、と泣きたいほど侘びしく、同情や憐憫《れんびん》で結婚するのは、間違いで、私は、やっぱりひとりでいたほうがよかったのじゃないかしら、と恐ろしいことを考えた夜もございました。もっと強いものを求めるいまわしい不貞が頭をもたげることさえあって、私は悪者でございます。結婚して、はじめて青春の美しさを、それを灰色に過してしまったくやしさが、舌を噛《か》みたいほど、痛烈に感じられ、いまのうち何かでもって埋め合せしたく、あの人とふたりで、ひっそり夕食をいただきながら、侘びしさ堪えがたくなって、お箸《はし》と茶碗持ったまま、泣きべそかいてしまったこともございます。何もかも私の慾でございましょう。こんなおたふくの癖に青春なんて、とんでもない。いい笑いものになるだけのことでございます。私は、いまのままで、これだけでもう、身にあまる仕合せなのです。そう思わなければいけません。ついつい、わが
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