ましたが、やっぱり貴公子らしいなつかしい品位がございました。尼御台さまに甘えるように、ぴったり寄り添ってお坐りになり、そうして将軍家のお顔を仰ぎ見てただにこにこ笑って居られます。
その時将軍家は、私の気のせいか少し御不快の様に見受けられました。しばらくは何もおっしゃらず、例の如く少しお背中を丸くなさって伏目のまま、身動きもせず坐って居られましたが、やがてお顔を、もの憂そうにお挙げになり、
学問ハオ好キデスカ
と、ちょっと案外のお尋ねをなさいました。
「はい。」と尼御台さまは、かわってお答えになりました。「このごろは神妙のようでございます。」
無理カモ知レマセヌガ
とまた、うつむいて、低く呟《つぶや》くようにおっしゃって、
ソレダケガ生キル道デス
底本:「太宰治全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1989(平成元)年2月28日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房
1975(昭和50)年6月〜1976(昭和51)年6月
入力:柴田卓治
校正:はやしだかずこ
2000年6月6日公開
2004年3月4日修正
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