んど致命的でさへあり得る。
「いいえ、なんでもないんです。」眞野は、かへつてはげますやうにして言つた。「この病棟には、重症患者がひとりもゐないのですし、それにきのふも、ろ號室のお母さまが私と廊下で逢つたとき、賑やかでいいとおつしやつて、喜んで居られましたのよ。毎日、私たちはあなたがたのお話を聞いて笑はされてばかりゐるつて、さうおつしやつたわ。いいんですのよ。かまひません。」
「いや、」小菅はソフアから立ちあがつた。「よくないよ。僕たちのおかげで君が恥かいたんだ。婦長のやつ、なぜ僕たちに直接言はないのだ。ここへ連れて來いよ。僕たちをそんなにきらひなら、いますぐにでも退院させればいい。いつでも退院してやる。」
三人とも、このとつさの間に、本氣で退院の腹をきめた。殊にも葉藏は、自動車に乘つて海濱づたひに遁走して行くはればれしき四人のすがたをはるかに思つた。
飛騨もソフアから立ちあがつて、笑ひながら言つた。「やらうか。みんなで婦長のところへ押しかけて行かうか。僕たちを叱るなんて、馬鹿だ。」
「退院しようよ。」小菅はドアをそつと蹴つた。「こんなけちな病院は、面白くないや。叱るのは構はないよ。
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