う見出しでございました。恥辱は、それだけでございませんでした。近所の人たちは、うろうろ私の家のまわりを歩いて、私もはじめは、それがなんの意味かわかりませんでしたが、みんな私の様《さま》を覗《のぞ》きに来ているのだ、と気附いたときには、私はわなわな震えました。私のあの鳥渡《ちょっと》した動作が、どんなに大事件だったのか、だんだんはっきりわかって来て、あのとき、私のうちに毒薬があれば私は気楽に呑《の》んだことでございましょうし、ちかくに竹藪《たけやぶ》でもあれば、私は平気で中へはいっていって首を吊《つ》ったことでございましょう。二、三日のあいだ、私の家では、店をしめました。
やがて私は、水野さんからもお手紙いただきました。
――僕は、この世の中で、さき子さんを一ばん信じている人間であります。ただ、さき子さんには、教育が足りない。さき子さんは、正直な女性なれども、環境に於《お》いて正しくないところがあります。僕はそこの個所を直してやろうと努力して来たのであるが、やはり絶対のものがあります。人間は、学問がなければいけません。先日、友人とともに海水浴に行き、海浜にて人間の向上心の必要について
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