》の私の小説集の表紙の画をかいてもらう事でしたが、実は、私はこの画かきさんの画を、常々とても馬鹿にしていて、その前にも、この画かきさんが、私の小説集の表紙の画をかいてみたいと幾度も私に申出た事があったのに、私は、お前なんかに表紙の画をかかせたら、それでなくても評判の悪い私の本は、一層評判が悪くなって、ちっとも売れなくなるにきまっているから、まあ、ごめんだ、と言って、はっきりお断りして来ていたのでした。実際、そのひとの画は、下手《へた》くそでした。けれども、こんど工場へはいり、いまこそ小説集の表紙の画を、あらたな思いで書いてみたい、というひどく神妙な申出に接して、私は、すぐに彼の勤めている工場へ画をかいてくれ、と頼みに出かけたのです。画が下手だってかまわない。私の小説集の評判が悪くなったってかまわない。そんな事はどうだっていい。私なんかのつまらぬ小説集の表紙の画をかく事に依《よ》って、彼の徴用工としての意気が更にあがるというならば、こんなに有難い事は無い。私は彼の可憐なお便りを受取って、すぐに彼の勤め先の工場に出かけた。彼は大喜びで私を迎えてくれて、表紙の画に就いての彼の腹案をさまざま私
前へ 次へ
全7ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング