この女性というものには、いじめられ、つらい思いをしてまいりました。私の母は、これは継母でもなんでもなく、まことの生みの母親でございましたが、どういうものか弟のほうばかりを可愛がって、長男の私に対しては妙によそよそしく、意地わるくするのでございます。もう私の母も、とうの昔にあの世に旅立ってしまいまして、仏《ほとけ》に対してとやかくうらみを申し述べるのは私としても、たいへん心苦しい事ですが、忘れも致しません、私が十歳くらいで、いまのあの弟が五歳くらいの頃に、私はよそから犬の子を一匹もらって来て少し自慢そうに母と弟とに見せてやったら、弟がそれをほしがって泣きました。すると母は、弟をなだめて、その犬の子は兄さんのごはんで育てるのだからな、と妙な事をまじめな顔で言います。兄さんのごはんとは、どんな事だか、私が自分でたべるごはんをたべないでその犬の子に与えて養うべきだという意味だったのでしょうか、それとも、私の家でたべているごはんは、全部|総領《そうりょう》の私のものなのだから、弟などには犬の子を養う資格が無いという意味だったのでしょうか、いまでも私には、はっきり理解が出来ないのですが、とにかくそ
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