から亭主はこのままでは、ならず者になるばかりだろうという事、にこりともせず乱れた髪を掻《か》きあげ掻きあげ、あたかもその雑誌社の人が仇敵《きゅうてき》か何かでもあるみたいに、ひどく憎々しげにまくしたてますので、わざわざ私の詩を頼みに来て下さる人たちも、イヤな顔をして、きっと私と女房と両方を軽蔑なさってしまうのでしょう、早々に退却してしまいます。そうして、女房は、その人の帰ったあとは私に食ってかかって、あんなのは大事なお客なのに、あなたは愛想が無いからすぐに逃がしてしまう、あたしにばかり頼っていないで、あなたも男なら男らしく、もっと元気を出して、交際を派手にやるようにしなければいけない、とまるで八つ当りのお説教をするのでございます。
 私はその頃、或るインチキ新聞の広告取りみたいな事もやって居りまして、炎天下あせだくになって、東京市中を走りまわり、行く先々で乞食《こじき》同様のあつかいを受け、それでも笑ってぺこぺこ百万遍お辞儀をして、どうやら一円紙幣を十枚ちかく集める事が出来て、たいへんな意気込みで家へ帰ってまいりましたが、忘れも致しません、残暑の頃の夕方で女房は縁側で両肌を脱ぎ髪を洗っ
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