したのか! ああ、私は、一言も弁解ができない。なにもかも、私が悪い! 虚栄の子は、虚栄のために、人殺しまでしなければいけない。私は私の過去に犯した大罪を、しらじらしく、小説に組みたてて行くほどの、まだそれほどの破廉恥漢ではない。以下、私は、祈りの気持で、懺悔の心で、すべてをいつわらずに述べてみよう。
私が雪を殺したのは、すべて虚栄の心からである。その夜、私たちは、結婚のちぎりをした。私の知られざる傑作「初恋の記」のハッピイ・エンドにくらべて、まさるとも劣らぬ幸福な囁《ささや》きを交した。私は、結婚を予想せずに女を愛することができなかった。
翌朝、私は、雪と一緒に、またこっそり湯殿のかげの小さいくぐり戸から外へ出たのである。なぜ、一緒に出たのであろう。わかい私には、そのような一夜を明して、女をひとりすげなく帰すのは、許しがたい無礼であると考えられたのである。夜明けのまちには、人ひとり通らなかった。私たちは、未来のさまざまな幸福を語り合って、胸をおどらせた。私たちは、いつまでもそうして歩いていたかった。雪は旅館の裏山へ私を誘った。私も、よろこんでついて行った。くねくね曲った山路をならん
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