少しずつ短かくなって行くけれども、私はちっとも眠くならず、またコップ酒の酔いもさめるどころか、五体を熱くして、ずんずん私を大胆にするばかりなのである。
 思わず、私は溜息《ためいき》をもらした。
「足袋をおぬぎになったら?」
「なぜ?」
「そのほうが、あたたかいわよ。」
 私は言われるままに足袋を脱いだ。
 これはもういけない。蝋燭が消えたら、それまでだ。
 私は覚悟しかけた。
 焔は暗くなり、それから身悶《みもだ》えするように左右にうごいて、一瞬大きく、あかるくなり、それから、じじと音を立てて、みるみる小さくいじけて行って、消えた。
 しらじらと夜が明けていたのである。
 部屋は薄明るく、もはや、くらやみではなかったのである。
 私は起きて、帰る身支度をした。
[#地から2字上げ](「新思潮」昭和二十二年七月号)



底本:「グッド・バイ」新潮文庫、新潮社
   1972(昭和47)年7月30日発行
   1989(平成1)年3月20日37刷改版
   1999(平成11)年6月10日56刷
入力:蒋龍
校正:鈴木厚司
2004年2月19日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング