よりも、もっと正しいという事をお見せしてあげますから、おいやでしょうけれど、これから、あたしをお傍に置いて下さいな。あたしの名前は、竹青というの。」
魚容は情に感じて、
「ありがとう。乃公も実は人間界でさんざんの目に遭《あ》って来ているので、どうも疑い深くなって、あなたの御親切も素直に受取る事が出来なかったのです。ごめんなさい。」
「あら、そんなに改まった言い方をしては、おかしいわ。きょうから、あたしはあなたの召使いじゃないの。それでは旦那《だんな》様、ちょっと食後の御散歩は、いかがでしょう。」
「うむ、」と魚容もいまは鷹揚《おうよう》にうなずき、「案内たのむ。」
「それでは、ついていらっしゃい。」とぱっと飛び立つ。
秋風|嫋々《じょうじょう》と翼を撫《な》で、洞庭の烟波《えんぱ》眼下にあり、はるかに望めば岳陽の甍《いらか》、灼爛《しゃくらん》と落日に燃え、さらに眼を転ずれば、君山、玉鏡に可憐《かれん》一点の翠黛《すいたい》を描いて湘君《しょうくん》の俤《おもかげ》をしのばしめ、黒衣の新夫婦は唖々《ああ》と鳴きかわして先になり後になり憂《うれ》えず惑わず懼《おそ》れず心のままに飛翔
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