リヤ! お前は、ばかだねえ。レヤチーズの怒るのも無理はない。わしは、けさ或る下役から、いやな忠告を受けた。寝耳に水の忠告であったが、お前のこのごろの打ち沈んでいる様子と思い合せて、もしや、と思った。わしは、そうでない事を信じたかったが、とにかく、お前の心を傷つけない程度に、それとなく優しく尋ねてみようと思った。わしは、そのとおりに、精一ぱいに優しくいたわって尋ねたつもりだ。けれども、お前は頑固《がんこ》に、だまっていて、おまけにここから逃げて行こうとさえした。けれども、もう、わかりました。オフィリヤ、お前たちの恋愛は卑怯《ひきょう》だねえ。少しも無邪気なところが無い。濁っている。なぜ、わしたちに、そんなに隠さなければならなかったのか。相手のお方の態度も見上げたものさ。てんとして喪服なぞをお召しになって、ご自身の不義は棚《たな》にあげ、かえって王や王妃に、いや味をおっしゃる。いまの若い者の恋愛とは、そんなものかねえ。好きなら好きでよい。身分のちがいもあるが、それも、いまは昔ほど、やかましくはない筈だ。なぜ、無邪気に打ち明けてくれなかったのです。クローヂヤスさまだって、もののわからぬおかたではない。わしだって、若い時には間違いもやらかした。わるいようには、しなかったのだ。でも、もうおそい。こんなに評判が立ってからだと、具合が悪い。馬鹿だ。お前たちは、馬鹿だ。だめですよ。いくら泣いても、だめですよ。お父さんも、呆《あき》れました。それで? レヤチーズは、全部を知っているのかね。」
オフ。「いいえ。兄さんは、そんな事なら生かして置けないと、言っていました。」
ポロ。「そうだろう。レヤチーズの言いそうな事だ。まあ、レヤチーズには黙っているさ。此の上あいつが飛び出して来たら、いよいよ事だ。いやな話だねえ。女の子は、これだから、いやだ。ふん、オフィリヤ。お前は、クイーンの冠を取りそこねた。」
三 高台
ハムレット。ホレーショー。
ハム。「しばらくだったな。よく来てくれたね。どうだい、ウイッタンバーグは。どんな具合だい。みな相変らずかね。」
ホレ。「寒いですねえ、こちらは。磯《いそ》の香がしますね。海から、まっすぐに風が吹きつけて来るのだから、かなわない。こちらは、毎晩こんなに寒いのですか?」
ハム。「いや、今夜はこれでも暖いほうだよ。一時は、寒かったがねえ
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