い。此所はお前の為に空けて置く!」
いかがです。学生本来の姿とは、即ち此の神の寵児、此の詩人の姿に違いないのであります。地上の営みに於ては、何の誇るところが無くっても、其の自由な高貴の憧《あこが》れによって時々は神と共にさえ住めるのです。
此の特権を自覚し給え。この特権を誇り給え。何時迄《いつまで》も君に具有している特権ではないのだぞ。ああ、それはほんの短い期間だ。その期間をこそ大事になさい。必ず自身を汚してはならぬ。地上の分割に与《あずか》るのは、それは学校を卒業したら、いやでも分割に与《あずか》るのだ。商人にもなれます。編輯者にもなれます。役人にもなれます。けれども、神の玉座に神と並んで座ることの出来るのは、それは学生時代以後には決してあり得ないことなのです。二度と返らぬことなのです。
三田の学生諸君。諸君は常に「陸の王者」を歌うと共に、又ひそかに「心の王者」を以《もっ》て自任しなければなりません。神と共にある時期は君の生涯に、ただ此の一度であるのです。
底本:「太宰治全集10」ちくま文庫、筑摩書房
1989(平成元)年6月27日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房
1975(昭和50)年6月から1976(昭和51)年6月
入力:杜十朗
校正:土屋隆
2003年9月4日作成
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