そんな恥知らずの事はもう言うな!
 きのう読んだ辰野《たつの》氏のセナンクウルの紹介文の中に、次のようなセナンクウルの言葉が録《しる》されてあった。
「生を棄てて逃げ去るのは罪悪だと人は言う。しかし、僕に死を禁ずるその同じ詭弁家《きべんか》が時には僕を死の前にさらしたり、死に赴かせたりするのだ。彼等の考え出すいろいろな革新は僕の周囲に死の機会を増し、彼等の説くところは僕を死に導き、または彼等の定める法律は僕に死を与えるのだ。」
 織田君を殺したのは、お前じゃないか。
 彼のこのたびの急逝《きゅうせい》は、彼の哀しい最後の抗議の詩であった。
 織田君! 君は、よくやった。



底本:「もの思う葦」新潮文庫、新潮社
   1980(昭和55)年9月25日発行
   1998(平成10)年10月15日39刷
入力:蒋龍
校正:今井忠夫
2004年6月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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