に笑われたら、どんなに恥ずかしく、つらい事だろうと、その事ばかりが心配で、生きている気もしませんでした。また沢田先生だって、本当に私の綴方に感心なさっているのではなく、私の綴方が雑誌に大きい活字で印刷され、有名な岩見先生に褒められているので、それで、あんなに興奮していらっしゃるのだろうという事は、子供心にも、たいてい察しが附いて居りましたから、なおのこと淋しく、たまらない気持でした。私の心配は、その後、はたして全部、事実となってあらわれました。くるしい、恥ずかしい事ばかり起りました。学校のお友達は、急に私によそよそしくなって、それまで一ばん仲の良かった安藤さんさえ、私を一葉さんだの、紫式部さまだのと意地のわるい、あざけるような口調で呼んで、ついと私から逃げて行き、それまであんなにきらっていた奈良さんや今井さんのグルウプに飛び込んで、遠くから私のほうをちらちら見ては何やら囁《ささや》き合い、そのうちに、わあいと、みんな一緒に声を合せて、げびた囃《はや》しかたを致します。私は、もう一生、綴方を書くまいと思いました。柏木の叔父さんにおだてられて、うっかり投書したのが、いけなかったのでした。柏
前へ
次へ
全26ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング