晴れ。春秋座、歳末の総会。企画部の委員に、僕が当選した。脚本選定その他、座の方針を審議する幹部直属の委員である。責任の重大さを感じる。
また、正月二日のラジオ放送、「小僧の神様」の朗読は、市川菊松ひとりに、やらせてみる事に決定された。二箇月の旅興行に於ける僕の奮闘が、認められた結果らしい。けれども僕は、いまは決して自惚《うぬぼ》れてはいない。
己《おの》れ只《ただ》一人|智《かしこ》からんと欲するは大愚のみ。(ラ・ロシフコオ)
まじめに努力して行くだけだ。これからは、単純に、正直に行動しよう。知らない事は、知らないと言おう。出来ない事は、出来ないと言おう。思わせ振りを捨てたならば、人生は、意外にも平坦《へいたん》なところらしい。磐《いわ》の上に、小さい家を築こう。
お正月には、斎藤先生の所へ、まっさきに御年始に行こうと思っている。こんどは逢《あ》ってくれそうな気がする。
僕は、来年、十八歳。
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わがゆくみちに はなさきかおり
のどかなれとは ねがいまつらじ
[#ここから15字下げ]――さんびか第三百十三
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底本:「パンドラの匣」新潮文庫、新潮社
1973(昭和48)年10月30日発行
1997(平成9)年12月20日46刷
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:SAME SIDE
校正:細渕紀子
2003年1月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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