。
カエレナイノデス。ワタシ、アヤマチシタ。
バカダ。コレカラドウスル。
スミマセン。ハタラクツモリ。
オ金、イルカ。
ゴザイマス。
絵ヲ、ミセテクダサイ。
ナイ。
イチマイモ?
アリマセン。
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僕は急に、静子さんの絵を見たくなったのである。妙な予感がして来た。いい絵だ、すばらしくいい絵だ。きっと、そうだ。
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絵ヲ、カイテユク気ナイカ。
ハズカシイ。
アナタハ、キットウマイ。
ナグサメナイデホシイ。
ホントニ、天才カモ知レナイ。
ヨシテ下サイ。モウオカエリ下サイ。
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僕は苦笑して立ちあがった。帰るより他はない。静子夫人は僕を見送りもせず、坐ったままで、ぼんやり窓の外を眺めていた。
その夜、僕は、中泉画伯のアトリエをおとずれた。
「静子さんの絵を見たいのですが、あなたのところにありませんか。」
「ない。」老画伯は、ひとの好さそうな笑顔で、「御自分で、全部破ってしまったそうじゃないですか。天才的だったのですがね。あんなに、わがままじゃいけません。」
「書き損じのデッサンでもなんでも、とにかく見たいの
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