天付き、折り返して2字下げ]
(奥田)(それを聞いて)そうか、よし。すぐ行く。(部屋へはいって、壁にかけてある自身の上衣をとって着ながら野中に)妹が警察に挙げられました。ばくちです。麻雀賭博《マージャンとばく》を学校の子供たちに教えてやっていたのです。たぶん、そんな事じゃないかと思っていました。ちょっと警察に行って来ます。(会釈《えしゃく》して、縁側に出て、はきものを捜す)
(野中)(蹌踉《そうろう》と立ち上り)僕も行く。
(奥田)(靴をはきながら)だめ、だめ。あなたはもう、どだい、歩けやしませんよ。(学童たちに向い)さ、行こう。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから2字下げ]
奥田教師、学童二名と共に舞台|下手《しもて》に走り去る。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
(野中)(夢遊病者の如くほとんど無表情で歩き、縁側から足袋《たび》はだしで降りて)僕も行く。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから2字下げ]
野中教師、ほとんど歩行困難の様子だが、よろめき、よろめき、足袋はだしのまま奥田教師たちのあとを追い下手に向う。
節子、冷然と坐ったままでいたのであるが、ふと、膝元《ひざもと》の白い角封筒に眼をとめ、取りあげて立ち、縁側に出てはきものを捜し、野中のサンダルをつっかけ、無言で皆のあとを追う。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]――舞台、廻る。

     第三場

[#ここから2字下げ]
舞台は、月下の海浜。砂浜に漁船が三艘あげられている。そのあたりに、一むらがりの枯れた葦《あし》が立っている。
背景は、青森湾。

舞台とまる。

一陣の風が吹いて、漁船のあたりからおびただしく春の枯葉舞い立つ。

いつのまにやら、前場の姿のままの野中教師、音も無く花道より登場。
すこし離れて、その影の如く、妻節子、うなだれてつき従う。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
(野中)(舞台中央まで来て、疲れ果てたる者の如く、かたわらの漁師に倒れるように寄りかかり)ああ、頭が痛い。これあ、ひどい。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから2字下げ]
節子、無言で野中に寄り添い、あたりを見廻し、それから白い角封筒をそっと野中に差し出す。角封筒は月光を受けて、鋭く光る。
[#ここで字下げ終わり]
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