いぐい釣糸をひっぱるように、なんだか重い、鉛みたいな力が、糸でもって私の頭を、ぐっとひいて、私がとろとろ眠りかけると、また、ちょっと糸をゆるめる。すると、私は、はっと気を取り直す。また、ぐっと引く。とろとろ眠る。また、ちょっと糸を放す。そんなことを三度か、四度くりかえして、それから、はじめて、ぐうっと大きく引いて、こんどは朝まで。
 おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか? もう、ふたたびお目にかかりません。



底本:「女生徒」角川文庫、角川書店
   1954(昭和29)年10月20日初版発行
   1968(昭和43)年2月5日44版発行
入力:細渕真弓
校正:細渕紀子
1999年2月16日公開
2007年5月17日修正
青空文庫作成ファイル:
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