冷たく描写している、その復讐として、若輩ちから及ばぬながら、次回より能《あた》う限り意地わるい描写を、やってみるつもりなのであります。それでは今回は次に一頁ほど原作者の記述をコピイして、それからまた私の、亭主と女学生についての描写をもせいぜい細かくお目に懸けることに致しましょう。女房コンスタンチェが決闘の前夜、冷たいピストルを抱いて寝て、さてその翌朝、いよいよ前代未聞の女の決闘が開始されるのでありますが、それについて原作者 EULENBERG が、れいの心憎いまでの怜悧《れいり》無情の心で次のように述べてあります。これを少し読者に読んでいただき、次回から私(DAZAI)のばかな空想も聞いていただきたく思います。女房は、六連発の拳銃を抱いて、床の中へ這入《はい》りました。さて、その翌朝、原作は次のようになって居ります。
『翌朝約束の停車場で、汽車から出て来たのは、二人の女の外には、百姓二人だけであった。停車場は寂しく、平地に立てられている。定木で引いた線のような軌道がずっと遠くまで光って走っていて、その先の地平線のあたりで、一つになって見える。左の方の、黄いろみ掛かった畑を隔てて村が見え
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