私は、あわてて失恋の歌を書き綴った。以後、女は、よそうと思った。
何もない。失うべき、何もない。まことの出発は、ここから? (苦笑。)
笑い。これは、つよい。文化の果の、花火である。理智も、思索も、数学も、一切の教養の極致は、所詮《しょせん》、抱腹絶倒の大笑いに終る、としたなら、ああ、教養は、――なんて、やっぱりそれに、こだわっているのだから、大笑いである。
もっとも世俗を気にしている者は、芸術家である。
約束の枚数に達したので、ペンを置き、梨《なし》の皮をむきながら、にがり切って、思うことには、「こんなのじゃ、仕様がない。」
底本:「太宰治全集10」ちくま文庫、筑摩書房
1989(平成元)年6月27日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房
1975(昭和50)年6月〜1976(昭和51)年6月
初出:「文芸」
1937(昭和12)年12月1日発行
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年3月17日作成
2006年7月2日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http
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