思案の敗北
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)傲慢《ごうまん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|掬《きく》
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ほんとうのことは、あの世で言え、という言葉がある。まことの愛の実証は、この世の、人と人との仲に於いては、ついに、それと指定できないものなのかもしれない。人は、人を愛することなど、とても、できない相談ではないのか。神のみ、よく愛し得る。まことか?
みなよくわかる。君の、わびしさ、みなよくわかる。これも、私の傲慢《ごうまん》の故であろうか。何も言えない。
中谷孝雄氏の「春の絵巻」出版記念宴会の席上で、井伏氏が低い声で祝辞を述べる。「質実な作家が、質実な作家として認められることは、これは、大変なことで、」語尾が震えていた。
たまに、すこし書くのであるから、充分、考えて考えて書かなければなるまい。ナンセンス。
カントは、私に考えることのナンセンスを教えて呉《く》れた。謂《い》わば、純粋ナンセンスを。
いま、ふと、ダンデスムという言葉を思い出し、そうしてこの言葉の語根は、ダンテというのではなかろうか、と
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