御からだいかがですか。
 全くといっていいほど、
 何も持っていません。
 泣きたくなるようでもあるし、
 しかし、
 信じて頑張っています。
 前便にくらべると、苦しみが沈潜して、何か充実している感じである。私は、三田君に声援を送った。けれども、まだまだ三田君を第一等の日本男児だとは思っていなかった。まもなく、函館から一通、お便りをいただいた。
 太宰さん、御元気ですか。
 私は元気です。
 もっともっと、
 頑張らなければなりません。
 御身体、大切に、
 御奮闘祈ります。
 あとは、ブランク。
 こうして書き写していると、さすがに、おのずから溜息が出て来る。可憐なお便りである。もっともっと、頑張らなければなりません、という言葉が、三田君ご自身に就いて言っているのであろうが、また、私の事を言っているようにも感ぜられて、こそばゆい。あとはブランク、とご自身で書いているのである。御元気ですか、私は元気です、という事のほかには、なんにも言いたい事が無かったのであろう。純粋な衝動が無ければ、一行の文章も書けない所謂《いわゆる》「詩人気質」が、はっきり出ている。
 けれども、私は以上の三通
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