の下宿のちかくの、山岸さんのお宅へ行って、熱心に詩の勉強をはじめた様子であった。山岸さんは、私たちの先輩の篤実《とくじつ》な文学者であり、三田君だけでなく、他の四、五人の学生の小説や詩の勉強を、誠意を以《もっ》て指導しておられたようである。山岸さんに教えられて、やがて立派な詩集を出し、世の達識の士の推頌《すいしょう》を得ている若い詩人が已《すで》に二、三人あるようだ。
「三田君は、どうです。」とその頃、私は山岸さんに尋ねた事がある。
山岸さんは、ちょっと考えてから、こう言った。
「いいほうだ。いちばんいいかも知れない。」
私は、へえ? と思った。そうして赤面した。私には、三田君を見る眼が無かったのだと思った。私は俗人だから、詩の世界がよくわからんのだ、と間《ま》のわるい思いをした。三田君が私から離れて山岸さんのところへ行ったのは、三田君のためにも、とてもいい事だったと思った。
三田君は、私のところに来ていた時分にも、その作品を私に二つ三つ見せてくれた事があったのだけれども、私はそんなに感心しなかったのだ。戸石君は大いに感激して、
「こんどの三田さんの詩は傑作ですよ。どうか一つ、ゆ
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