五所川原
太宰治

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)叔母《おば》が
−−

 叔母《おば》が五所川原《ごしょがわら》にいるので、小さい頃よく五所川原へ遊びに行きました。旭座の舞台開きも見に行きました。小学校の三、四年生の頃だったと思います。たしか友右衛門だった筈《はず》です。梅の由兵衛に泣かされました。廻舞台を、その時、生れてはじめて見て、思わず立ち上ってしまった程に驚きました。この旭座は、そののち間もなく火事を起し、全焼しました。その時の火焔が、金木から、はっきり見えました。映写室から発火したという話でした。そうして、映画見物の小学生が十人ほど焼死しました。映写技師が罪に問われました。過失傷害致死とかいう罪名でした。子供にも、どういうわけだか、その技師の罪名と運命を忘れる事が出来ませんでした。旭座という名前が「火」の字に関係があるから焼けたのだという噂《うわさ》も聞きました。二十年も前の事です。
 七ツか、八ツの頃、五所川原の賑《にぎ》やかな通りを歩いて、どぶに落ちました。かなり深くて、水が顎《あご》のあたりまでありました。三尺ちかくあったのかも知れませ
次へ
全3ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング