のですから。」
「じゃ私たちは、もう二、三日、金木の家へ泊めてもらって、――それは図々《ずうずう》しいでしょうか。」
「お母さんの容態に依《よ》りますな。とにかく、あした電話で打ち合せましょう。」
「北さんは?」
「あした東京へ帰ります。」
「たいへんですね。去年の夏も、北さんは、すぐにお帰りになったし、ことしこそ、青森の近くの温泉にでも御案内しようと、私たちは準備して来たのですけど。」
「いや、お母さんがあんなに悪いのに、温泉どころじゃありません。じっさい、こんなに容態がお悪くなっているとは思わなかった。案外でした。あなたに払っていただいた汽車賃は、あとで計算しておかえし致しますから。」突然、汽車賃の事など言い出したので、私はまごついた。
「冗談じゃない。お帰りの切符も私が買わなければならないところです。そんな御心配は、よして下さい。」
「いや、はっきり計算してみましょう。中畑さんのところにあずけて置いたあなた達の荷物も、あした早速、中畑さんにたのんで金木のお家へとどけさせる事にしましょう。もう、それで私の用事は無い。」まっくらい路を、どんどん歩いて行く。「停車場はこっちでしたね?
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