駝《らくだ》が針の穴をくぐるとは、それや無理な。出来ませぬて。
○私を葬り去る事の易《やす》き哉《かな》。
○公侯伯子男。公、侯、伯、子、男。
○銭湯よろし。
○美濃十郎。美濃十郎。美濃十郎。初号活字の名刺でも作りますか。
○H、ばか。D、低能。ゴルフのカップは、よだれ受け。S、阿呆《あほう》。学校だけは出ました。U、半死。あの若さで守銭奴とは。O君はよい。男ぶりだけでも。
○昼は消えつつものをこそ思う。
○水戸黄門、諸国漫遊は、余が一生の念願也。
○私は尊敬におびえている。
○没落ばんざい。
○パスカルを忘れず。
○芸|娼妓《しょうぎ》の七割は、精神病者であるとか。「道理で話が合うと思った。」
○誰か見ている。
○みんないいひとだと私は思う。
○煙草をたべたら、死ぬかしら。
○机に向って端座し、十円紙幣をつくづく見つめた。不思議のものであった。
○肉親地獄。
○安い酒ほど、ききめがいい。
○鏡を覗《のぞ》いてみて、噴きだした。所詮、恋愛を語る顔でなし。
○もとをただせば、野山のすすきか。
○あたりまえの人になりたい努力。
○所詮は、言葉だ。やっぱり、言葉だ。すべては、言葉だ。
○KR女史に、耳環《みみわ》を贈る約束。
○人の子には、ひとつの顔しか無かった。
○性慾を憎む。
○明日。
[#ここで字下げ終わり]
読んでいって、てるには、ひどく不思議な気がした。庭を掃き掃き、幾度も首をふって考えた。この、謂《い》わば悪魔のお経《きょう》が、てるの嫁入りまえの大事なからだに悪い宿命の影を投じた。
C
私をお笑い下さいませ、毎夜、毎夜、私は花とばかり語り合って居ります。あなたさまをも含めてみんなを、いやになりました。花は、万朶《ばんだ》のさくらの花でも、一輪、一輪、おそろしいくらいの個性を持って居ります。私は、いま、ベッドに腹這いになって、鉛筆をなめなめ、考え考えして、一字、一字、書きすすめ、もう、死ぬるばかり苦しくなって、そうして、枕元の水仙《すいせん》の花を見つめて居ります。電気スタンドの下で水仙の花が三輪、ひとつは右を向き、ひとつは左を向き、もうひとつは、うつむいたまま、それぞれ私に語ります。右を向いている真面目の花は、わかっているわよ。けれども、生きなければなりませぬ。左を向いている活溌の花は、どうせ、世の中って、こんなものさ。うつむいている
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