う》でもウイスキイでもかまいませんからね、それから、食べるものは、あ、そうそう、奥さん今夜はね、すてきなお土産《みやげ》を持参しました、召上れ、鰻《うなぎ》の蒲焼《かばやき》。寒い時は之《これ》に限りますからね、一|串《くし》は奥さんに、一串は我々にという事にしていただきましょうか、それから、おい誰か、林檎《りんご》を持っていた奴があったな、惜しまずに奥さんに差し上げろ、インドといってあれは飛び切り香り高い林檎だ。」
私がお茶を持って客間へ行ったら、誰やらのポケットから、小さい林檎が一つころころところげ出て、私の足もとへ来て止り、私はその林檎を蹴飛《けと》ばしてやりたく思いました。たった一つ。それをお土産だなんて図々しくほらを吹いて、また鰻だって後で私が見たら、薄っぺらで半分乾いているような、まるで鰻の乾物《ひもの》みたいな情無いしろものでした。
その夜は、夜明け近くまで騒いで、奥さまも無理にお酒を飲まされ、しらじらと夜の明けた頃に、こんどは、こたつを真中にして、みんなで雑魚寝《ざこね》という事になり、奥さまも無理にその雑魚寝の中に参加させられ、奥さまはきっと一睡も出来なかったでし
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