様、子供、すでに一家のあるじ、そうして地味の小説を書いて、おとなしく一日一日を味いつつ生きて居る一群の作家があって、その謂《い》わば、生活派の作家のうちの二、三人が、地平の家のまわりに居住していた。もちろん、地平の先輩である。かれは、ときたま、からだをちぢめて、それら諸先輩に文学上の多くの不審を、子供のような曇りなき眼で、小説と記録とちがいますか? 小説と日記とちがいますか? 『創作』という言葉を、誰が、いつごろ用いたのでしょう、など傍《はた》の者の、はらはらするような、それでいて至極もっともの、昨夜、寝てから、暗闇の中、じっと息をころして考えに考え抜いた揚句《あげく》の果の質問らしく、誠実あふれ、いかにもして解き聞かせてもらいたげの態度なれば、先輩も面くらい、そこのところがわかればねえ、などと呟《つぶや》き、ひどく弱って、頭をかかえ、いよいよ腐って沈思黙考、地平は知らず、きょとんと部屋の窓の外、風に吹かれて頬かむり飛ばして女房に追わせる畑の中の百姓夫婦を眺めて居る。そのように、一種不思議のおくめんなき人柄を持っていた地平でも、流石《さすが》におのれ一人、縞《しま》の春服を着て歩けなか
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