太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)要《い》らない。
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「戦争が終ったら、こんどはまた急に何々主義だの、何々主義だの、あさましく騒ぎまわって、演説なんかしているけれども、私は何一つ信用できない気持です。主義も、思想も、へったくれも要《い》らない。男は嘘《うそ》をつく事をやめて、女は慾を捨てたら、それでもう日本の新しい建設が出来ると思う。」
 私は焼け出されて津軽の生家の居候《いそうろう》になり、鬱々《うつうつ》として楽しまず、ひょっこり訪ねて来た小学時代の同級生でいまはこの町の名誉職の人に向って、そのような八つ当りの愚論を吐いた。名誉職は笑って、
「いや、ごもっとも。しかし、それは、逆じゃありませんか。男が慾を捨て、女が嘘をつく事をやめる、とこう来なくてはいけません。」といやにはっきり反対する。
 私はたじろぎ、
「そりゃまた、なぜです。」
「まあ、どっちでも、同じ様なものですが、しかし、女の嘘は凄《すご》いものです。私はことしの正月、いやもう、身の毛もよだつような思いをしました。それ以来、私は、てんで女というものを信用しなくなりました。う
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