を非難なさつて居られました。けれども将軍家はおだやかに、
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ナカナカ、世捨人デハナイ。
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とおつしやつただけで、何事もお気にとめて居られない御様子でございました。
その翌日、参議雅経さまが少し恐縮の態で御ところへおいでになられましたが、その時も、将軍家はこころよくお逢ひになつて、種々御歓談の末、長明入道さまにも、まだまだ尋ねたい事もあるゆゑ遠慮なく御ところへ参るやうにとのお言伝さへございました御様子でした。けれども長明入道さまのはうで、何か心にこだはるものがお出来になつたか、その後両三度、御ところへお見えになられましたけれど、いつも御挨拶のみにて早々御退出なされ、将軍家もまた、無理におとめなさらなかつたやうでございました。
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信仰ノ無イ人ラシイ
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そのやうな事を呟やかれて居られた事もございました。とにかく私たちから見ると、まだまだ強い野心をお持ちのお方のやうで、ただ将軍家の和歌のお相手になるべく、それだけの目的にて鎌倉へ下向したとは受け取りかねる節もないわけではございませんでしたが、あのや
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