くかいの御外戚を作るやうな結果になり、同じ土地の御外戚のわづらはしさは、将軍家もお小さい頃から、例の北条氏と比企氏との対立などにつけても、よくご存じの筈で、そのやうな無益の騒擾を御見透しなさつた上の御処置かも知れぬ、とこれさへもまあ、下衆の言ふ、贔屓の引きたふしのやうなものでございまして、無理に意味をつけるとしても、本当に、それくらゐのところのものを或る人はまた仔細らしく、この時すでに将軍家に於いては朝幕合体、さらにすすんで大政奉還の深謀さへあつて御台所を院の御外戚より求められたのだといふひどく大袈裟な当推量をなさるお方もあつたやうでございました。それもまた思ひ過しの野暮な言ひ草で、私の親しく拝しました将軍家は、決してそんな深い秘密のたくらみなどなさるお方ではなく、まつりごとの決裁に於いても、お歌をさらさらお作りなさる時の御態度と同様に、その場の気配から察してとどこほる事なく右あるいは左とおきめになつて、まさにそれこそ霊感といふものでございませうか、みぢんも理窟らしいものが無く、本当に、よろづに、さらりとしたものでございました。ただ、あかるさをお求めになるお心だけは非常なもので、
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