折の流鏑馬に峰王といふ綺麗な童子も参加いたして、きりりと引きしぼつて、ひやうと射た矢が的をはづれて恥づかしのあまりただちにその場から逐電なし、たちまちもつて出家したとの事、これには御台所さまをはじめお傍の人たち一様に笑ひ崩れてしまひました。
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都ハ、アカルクテヨイ。
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と将軍家も微笑んでおつしやいました。この清綱さまは、もともと御台所さまのお附きのお侍で、御台所さまはご存じのとほり前権大納言坊門信清さまの御女子、十三歳の御時に鎌倉へ御輿入に相成り、その時には将軍家も同じ十三歳、さぞかしお可愛らしい御夫婦でございましたでせう。前権大納言さまは、仙洞御所の御母后の御実弟で、京都に於いても指折りの御名門、ひとの話に依りますと、はじめ北条家の近親、足利義兼氏のお娘を御台所にと執権方からの推薦がございましたのださうで、けれども当時十三歳とは言へ、勘のするどいお方でございますから、
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将軍家ノ御台所ハ京都ニヰマス
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ときつぱり御申渡しになつたのださうで、それで周囲のお方たちも余儀なく京都の公卿さまの御女
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