、ここに御密談がまとまつたやうな次第で、もちろん之は私が、のちにいろいろの人から聞いて、たぶんかうでもあつたらうかと思はれるままにお話申し上げたのでございますから、その辺はよろしく御斟酌の程をお願ひ申し上げます。さて、その翌々日、入道さまは相州さまからの御使として御前に参り、いたづらに官位をお望みなさる事のよろしからざる理由を、なかなか美事に御申述べに相成りました。日頃あいまいの言ひ方ばかりしていらつしやる入道さまには似合はず、堂々たる御言論で、まづ故右大将家が、あれほどの大功をお立てになりながらも佳運を子孫に残さうといふ思召しからその御一代に於いては官位を望まず、ただ征夷大将軍たるを以て満足して居られたといふ事から説き起し、当代に於いては、さしたる勲功も無くして既に中納言中将に昇り給ふ、かかる事例は摂関の御子息の場合に於いてのみ見受けられる事で、それ以外の者には許されるものではないのでございます、このやうな無理をあくまでも押して行きましたならば、或いは、わざはひその身に及ぶかも知れない、もし御子孫の余栄を願ふおつもりがあつたならば、須らく御当官を辞し、御父君の如くただ征夷大将軍を以て足れりとなし、漸く御高年に及びて然るべき官位を拝受なされたはうがよろしいかと存じます、と淀みなく巧みに諷諫申しましたけれども、将軍家は爽やかに御微笑なされ、
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官位ヲ望ンデワルイ理由ハ他ニモアラウ。子孫ノタメトハ唐突デス。子孫ハ、ドコニモ居リマセヌ。
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とれいの御冗談めかしておつしやいましたので、入道さまも拍子抜けがした様子で、ぼんやり将軍家のお顔を見上げて、何もおつしやらずに、やがて静かに一礼して、そのままあつけなく御退出に相成りました。けれども、この時の将軍家の、子孫は無い、といふお言葉が、それは別段あやしむにも足らぬ事で、将軍家にはお子さまも無いし、軽く入道さまをおからかひになつたお言葉にちがひないのでございますが、それでも、どうも奇妙に私どもの胸に悲しく響いて、めつさうもない不吉な御予言のやうにさへ感ぜられ、すべて私たちの愚かな気の迷ひにきまつてゐるとは知りながらも、それから三年目のお正月に、あんな恐しい事が起つてみますると、やつぱり、この時の将軍家のお言葉をも不思議の一つに数へ上げたいやうな気がしてまゐりますのでございます。渡宋
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