る。おれは將棋にさへ危機を感じはじめた。やうやく疲勞を覺へたのだ。よさう、と言つて、おれは將棋の道具をとりのけ、その寢床のなかへもぐり込んだ。友人もおれとならんで仰向けにころがり煙草をふかした。おれは、うつかり者。休止は、おれにとつては大敵なのだつた。かなしい影がもうはや、いくどとなくおれの胸をかすめる。おれは、さて、さて、と意味もなく呟いては、その大きい影を追ひはらつてゐた。とてもこのままではならぬ。おれは動いてゐなければいけないのだ。
君は、これを笑ふであらうか。おれは寢床へ腹這ひになつて、枕元に散らばつてあつた鼻紙をいちまい拾ひ、折紙細工をはじめたのである。
まづこの紙を對角線に沿うて二つに折つて、それをまた二つに疊んで、かうやつて袋を作つて、それから、こちらの端を折つて、これは翼、こちらの端を折つて、これはくちばし、かういふ工合ひにひつぱつて、ここのちひさい孔からぷつと息を吹きこむのである。これは、鶴。」
水車
橋へさしかかつた。男はここで引きかへさうと思つた。女はしづかに橋を渡つた。男も渡つた。
女のあとを追つてここまで歩いて來なければいけなかつたわ
前へ
次へ
全29ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング