れっきりです。
変らないという事、その事だけでも、並たいていのものじゃないんだ。いわんや、芸の上の進歩とか、大飛躍とかいうものは、ほとんど製作者自身には考えられぬくらいのおそろしいもので、それこそ天意を待つより他に仕方のないものだ。紙一重のわずかな進歩だって、どうして、どうして。自分では絶えず工夫して進んでいるつもりでも、はたからはまず、現状維持くらいにしか見えないものです。製作の経験も何もない野次馬たちが、どうもあの作家には飛躍が無い、十年一日の如しだね、なんて生意気な事を言っていますが、その十年一日が、どれだけの修業に依って持ち堪えられているものかまるでご存じがないのです。権威ある批評をしようと思ったら、まず、ご自分でも或る程度まで製作の苦労をなめてみる事ですね。
どうも暑いですね。こんな暑い日にはいっそドテラでも着てみたら、どうかしら。かえって涼しいかも知れない。なにしろ暑い。
[#地から1字上げ]――「芸術新聞」昭和十七年八月――
底本:「道化の精神」大和出版
1969(昭和44)年2月28日初版発行
1992(平成4)年6月30日新装1刷発行
初出:「芸
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