炎天汗談
太宰治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)下手《へた》さに
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]――「芸術新聞」昭和十七年八月――
−−
暑いですね。ことしは特に暑いようですね。実に暑い。こんなに暑いのに、わざわざこんな田舎にまでおいで下さって、本当に恐縮に思うのですが、さて、私には何一つ話題が無い。上衣をお脱ぎになって下さい。どうぞ。こんな暑いのに外を歩くのはつらいものです。パラソルをさして歩くと、少したすかるかも知れませんが、男がパラソルをさして歩いている姿は、あまり見かけませんね。
本当に何も話題が無くていけません。画の話? それも困ります。以前は私も、たいへん画が好きで、画家の友人もたくさんあって、その画家たちの作品を、片端からけなして得意顔をしていた事もあったのですが、昨年の秋に、ひとりでこっそり画をかいてみて、その下手《へた》さにわれながら呆れてそれ以来は、画の話は一言もしない事にきめました。このごろは、友人の作品にも、ひたすら感服するように心掛けています。
これは、画の話ではあり
次へ
全4ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング