一燈
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鳥籠《とりかご》
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 芸術家というものは、つくづく困った種族である。鳥籠《とりかご》一つを、必死にかかえて、うろうろしている。その鳥籠を取りあげられたら、彼は舌を噛《か》んで死ぬだろう。なるべくなら、取りあげないで、ほしいのである。
 誰だって、それは、考えている。何とかして、明るく生きたいと精一ぱいに努めている。昔から、芸術の一等品というものは、つねに世の人に希望を与え、怺《こら》えて生きて行く力を貸してくれるものに、きまっていた。私たちの、すべての努力は、その一等品を創る事にのみ向けられていた筈《はず》だ。至難の事業である。けれども、何とかして、そこに、到達したい。右往も左往も出来ない窮極の場所に坐って、私たちは、その事に努めていた筈である。それを続けて行くより他は無い。持物は、神から貰った鳥籠一つだけである。つねに、それだけである。
 大君の辺《へ》にこそ、とは日本のひと全部の、ひそかな祈願の筈である。さして行く笠置《かさぎ》の山、と仰《おお》せられては、藤原季房ならずとも、泣き伏すにきまっている
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