夜の幻想に端を発しているのである。
 けれども、その美談は決して嘘ではない。たしかに、そのような事実が、この世に在ったのである。
 ここに作者の幻想の不思議が存在する。事実は、小説よりも奇なり、と言う。しかし誰も見ていない事実だって世の中には、あるのだ。そうして、そのような事実にこそ、高貴な宝玉が光っている場合が多いのだ、それをこそ書きたいというのが、作者の生甲斐になっている。
 第一線に於いて、戦って居られる諸君。意を安んじ給え。誰にも知られぬ或る日、或る一隅に於ける諸君の美しい行為は、かならず一群の作者たちに依って、あやまたず、のこりくまなく、子々孫々に語り伝えられるであろう。日本の文学の歴史は、三千年来それを行い、今後もまた、変る事なく、その伝統を継承する。



底本:「道化の精神」大和出版
   1969(昭和44)年2月28日初版発行
   1992(平成4)年6月30日新装1刷発行
初出:青森県某誌
   1944(昭和19)年頃
入力:番 裕子
校正:土屋隆
2005年1月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http:/
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