「数学の本質は、その自由性に在る。たしかに、そうだ。自由性とは、Freiheit の訳です。日本語では、自由という言葉は、はじめ政治的の意味に使われたのだそうですから、Freiheit の本来の意味と、しっくり合わないかも知れない。Freiheit とは、とらわれない、拘束されない、素朴のものを指していうのです。frei でない例は、卑近な所に沢山あるが、多すぎてかえって挙げにくい。たとえば、僕のうちの電話番号はご存じの通り4823ですが、この三|桁《けた》と四|桁《けた》の間に、コンマをいれて、4,823と書いている。巴里《パリ》のように48 | 23とすれば、まだしも少しわかりよいのに、何でもかでも三|桁《けた》おきにコンマを附けなければならぬ、というのは、これはすでに一つの囚《とらわ》れであります。老博士はこのようなすべての陋習《ろうしゅう》を打破しようと、努めているのであります。えらいものだ。真なるもののみが愛すべきものである、とポアンカレが言っている。然り。真なるものを、簡潔に、直接とらえ来ったならば、それでよい。それに越したことがない。」もう、物語も何もあったものでない。き
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