の通りのかっぽれさんにかえっていて、固パンが、れいのらっきょうの空瓶を綺麗に洗って来て、どうぞ、と言って真面目《まじめ》に差出した時にも、すみません、とぴょこんとお辞儀をして素直に受け取り、そうして昼食がすんでから、梅干を一つずつ瀬戸の小鉢から、らっきょうの瓶に、たのしそうに移していた。世の中の人が皆、かっぽれさんのようにあっさりしていたら、この世の中も、もっと住みよくなるに違いないと思われた。
喧嘩の事に就いては、これくらいにして、ついでにもう一つ簡単な御報告がある。
きょうの午後の摩擦は、竹さんだった。僕は、竹さんに君のことを少し言った。
「竹さんを、とても好きだと言っている人があるんだけど。」
竹さんは、摩擦の時には、ほとんど口をきかない。いつも黙って涼しく微笑《ほほえ》んでいる。
「マア坊なんかより、竹さんのほうが十倍もいいと言ってた。」
「誰《だれ》や。」沈黙女史も、つい小声で言った。マア坊よりもいい、というほめ方が、いたく気にいった様子である。女って、あさはかなものだ。
「うれしいかい?」
「好かん。」竹さんはそう一こと言ったきりで、シャッシャッと少し手荒く摩擦をつづ
前へ
次へ
全183ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング